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Report.04 涼宮ハルヒの認識(後編) 朝、廊下。わたしはいつもの時間に登校して、いつものように自分の教室へ向かっていた。 前を見ると、涼宮ハルヒが、手に紙束を持ち、わたしに向かって歩いてきた。そしてわたしの近くまで来ると、突然、 「わっ!?」 何もないところで躓いて転んだ。手に持っていた紙束が主にわたしに向けて盛大に撒き散らされる。 「わっ、わっ、わっ……!?」 涼宮ハルヒはあたふたしながら紙を拾い集めだした。 「あっ、そ、そこの、カーディガンの人! てっ、手伝ってくれませんかっ!?」 わたしの目を見て必死に何かを訴えかけながら言った。 涼宮ハルヒのすることには必ず理由がある。わたしは肯くと、紙を拾い集めるのを手伝った。散らばった紙をすべて拾い集め、わたしが拾った分を涼宮ハルヒに手渡そうとすると、彼女は素早くわたしの手首を両手で掴むと、一気に自分の近くに引き寄せた。 「あ、あのっ、ありがとうございますぅ~」 涼宮ハルヒは目を潤ませ、顔を近づけながら礼を言った。相当顔が近い。わたしの視界が涼宮ハルヒの顔で埋まる。紙束で隠れる格好となった涼宮ハルヒの手が、わたしの胸元をまさぐった。かなり乱暴な手つき。 「あのっ、それではこれでっ。あっ、ありがとうございましたぁ~っ!!」 すぐに涼宮ハルヒは立ち上がり、そそくさと立ち去った。 わたしは教室に入り、自分の席に着くと、いつものように本を取り出し読み始めた。そして本で死角を作りながら、先ほど涼宮ハルヒにまさぐられた自分の胸元を確認する。 やはり、紙片が残されていた。内容を確認する。 『今日の放課後、誰もいなくなったら、あたしの教室で。』 放課後、いつもの部室。三人しかいない最近の風景。時折朝比奈みくるがお茶のお替りを淹れる以外、誰も何も言わない。わたしがパタンと本を閉じると、皆は帰り支度を始める。これだけが、あの日以前から変わらないこの部室の風景。 彼らには、涼宮ハルヒからの呼び出しのことは伝えていない。涼宮ハルヒは他の団員と接触を絶つなか、芝居を打ってまでわたしに接触してきた。その行為の意味を推測し、わたしが単独で接触するのが妥当と判断した。 わたしは皆と別れ部室を出ると、涼宮ハルヒが待つ教室へと向かった。教室の扉を開ける。涼宮ハルヒは自席に座っていた。 「あ……」 涼宮ハルヒはわたしの姿を見ると、安堵した表情になる。しかしすぐに真剣な顔で辺りをキョロキョロと見回す。 「この教室の近辺に人はいなかった。ネットワーク上の書き込みを分析すると、最近この学校がセキュリティを強化したため、彼らは校内には一切立ち入れない。ここは安全。」 そこまで言うと、ようやく涼宮ハルヒは本当に安堵した。 「ふぅ~。あ、有希、早(はよ)こっち来て座って。」 自分の前の席を指して言う。わたしは肯くと、念のため教室の扉の鍵を情報改変した。これでこの教室は、内側からしか扉を開けられない。 「いつどこで誰に見られてるか分からへんから、なかなかみんなに近付かれへんかって。今朝、何とか有希にメモを渡せて良かった。気付いてくれへんかったらどうしようか思(おも)たわ。」 【いつどこで誰に見られてるか分からないから、なかなかみんなに近付けなくて。今朝、何とか有希にメモを渡せて良かった。気付いてくれなかったらどうしようかと思ったわ。】 わたしは涼宮ハルヒの顔を見ながら、無言で頷いた。 「さて……わざわざ呼び出したんは他でもない。あんたに見てほしいもんがあんねん。」 【さて……わざわざ呼び出したのは他でもない。あんたに見てほしいものがあるの。】 そう言うと涼宮ハルヒは、鞄から封筒を取り出してわたしに手渡した。 「読んでみて。」 わたしは封筒の中身を取り出す。中には便箋が入っていて、達筆だが読みやすい丁寧な字がしたためられていた。わたしはその手紙を読んだ。 前略 二度と近付かないという約束を破っての、突然の手紙で失礼いたします。これだけはどうしても伝えなければならないと思い、筆を執りました。 先日は、あのように大変失礼な行動であなたに多大な迷惑を掛けてしまいました。真に申し訳ございませんでした。深くお詫び申し上げます。 当時はそのような立場に置かれた時、どれだけ不愉快な思いをするか全く感じることができませんでした。現在、私は同じような立場に置かれ、あの時私があなたにしたことと同じようなことをされています。そのような状況になって初めて、あの時あなたがどのような気持ちでいたか思い至ることができました。 今に至るまで人の痛みを知らず気付かなかった、己の不明を深く恥じます。 いくら言葉を重ねても謝罪には程遠いこととは存じますが、せめてもの誠意をと思い、こうして手紙という形でお伝えさせていただきました。今後は二度とあなたの周囲に近付くことはしないと約束します。 このような手紙を見てあの時を思い出し、また不愉快な思いをさせてしまったかもしれません。重ねてお詫び申し上げます。真に申し訳ありませんでした。 草々 涼宮ハルヒ 「……どう……?」 涼宮ハルヒは、不安そうな顔でわたしを窺っている。 「あたし、こんな状況になって初めて、気ぃ付いたことがあんねん。」 【あたし、こんな状況になって初めて、気が付いたことがあるのよ。】 涼宮ハルヒは、当時は分からなかった少女Aの気持ちに、自分が同じような立場に置かれて初めて気付いたこと、今まで全く他人の気持ちを推し量ることを知らなかったことを少女Aに伝え、謝罪したいという。 しかし、先日の一件で会わないことを約束し、また自分もどのような顔で会えば良いのかわからないので、手紙という手段を使って謝罪の気持ちを伝えることにした。そして、謝罪の手紙を書くのは初めてのことなので、先方に失礼のないよう、わたしに内容を確かめてほしいと言ってきた。 「あたし、こんな真面目な手紙なんか書くん初めてやし、どんなこと書いたらええんか分からへんから……有希は物知りやし、いっつもいっぱい本読んどぉやろ? せやから……な? お願い。」 【あたし、こんな真面目な手紙なんか書くの初めてだし、どんなこと書いたら良いのか分からないから……有希は物知りだし、いつもいっぱい本を読んでるじゃない? だから……ね? お願い。】 わたしに、『心からの謝罪の手紙』の添削など、できるのだろうか? わたしは、何度も何度も手紙を読み返した。しばらくして、言う。 「問題ない、と思う。」 「ほんま!? 何か失礼なこととか、書いてへん? 書かなあかんこと書き忘れてへん?」 【ほんと!? 何か失礼なこととか、書いてない? 書かなきゃならないこと書き忘れてない?】 「あなたは自分の今の気持ちを彼女に伝え、謝罪したいと思った。この文面で気持ちは伝わると思う。」 そしてわたしは少し考え、こう付け足した。 「言葉だけで思いをすべて伝えるのは難しい。でも、たぶん大丈夫。」 涼宮ハルヒはしばらくわたしの顔を見て、そして肯いた。 「有希……ありがとう。」 涼宮ハルヒの目尻には、輝くものがあった。 「有希、ごめんやけど……ちょっと、あたしの話聞いてくれへんかな? こんなこと、人に話すようなこと違(ちゃ)うと思うんやけど、何か、誰かに聞いてほしい気分やねん……」 【有希、悪いけど……ちょっと、あたしの話聞いてくれないかな? こんなこと、人に話すようなことじゃないと思うんだけど、何か、誰かに聞いてほしい気分なのよ……】 「いい。」 「こんなこと、人に話すんは恥ずかしいんやけど……有希になら、話せるような気がして。」 【こんなこと、人に話すのは恥ずかしいんだけど……有希になら、話せるような気がして。】 「そう。」 そして涼宮ハルヒは、自分の生い立ち、誰も自分のわがままを止めなかったことを話し始めた。それは先日『彼』が推測した通りだった。 「それでな? あたしが何言(ゆ)うても、周りの人は何も言わへんねん。最初は、別に嫌やないんかなと思(おも)ててん。でも、だんだん、違うってことが分かった。みんな、あたしのこと本気で相手にしてへんかったんや。誰一人として。あたしはいつの間にか……一人ぼっちになっとった。」 【それでね? あたしが何を言っても、周りの人は何も言わないの。最初は、別に嫌じゃないのかなと思ってた。でも、だんだん、違うってことが分かった。みんな、あたしのこと本気で相手にしてなかったんだ。誰一人として。あたしはいつの間にか……一人ぼっちになってた。】 涼宮ハルヒは続ける。 「あたしは……えーと、こんなこと打ち明けるん、有希が初めてやで? せやからみんなには内緒にしといてや? ……一人で必死になって、真剣になって、でも周りの人は誰も相手にしてくれへんかって……寂しかった。」 【あたしは……えーと、こんなこと打ち明けるの、有希が初めてよ? だからみんなには内緒にしといてよ? ……一人で必死になって、真剣になって、でも周りの人は誰も相手にしてくれなくて……寂しかった。】 涼宮ハルヒは、今にも泣き出しそうな顔で、そう言った。 「『ちゃんとあたしを見て!』って叫びたかった。あたしが悪いことをしたら、ちゃんと叱ってほしかった。真剣にあたしと向き合ってほしかった。でも……誰も見てくれへんかった。寄って来るんは、『顔が可愛い』からってだけで電話で告白してくるような奴ぐらいやった。」 【『ちゃんとあたしを見て!』って叫びたかった。あたしが悪いことをしたら、ちゃんと叱ってほしかった。真剣にあたしと向き合ってほしかった。でも……誰も見てくれなかった。寄って来るのは、『顔が可愛い』からってだけで電話で告白してくるような奴ぐらいだった。】 涼宮ハルヒは切々と訴え続けた。普段の『SOS団団長』涼宮ハルヒの面影は全くない。そこにいるのは『自律進化の可能性』でも『時間断層の中心』でも『神のごとき存在』でもない。『人間』涼宮ハルヒ。一人の『少女』だった。 情報統合思念体は、『「彼」の動向に注意を払い、わたしが最善と考える行動を取る』ことを指示した。今この場に『彼』はいないが、もし『彼』がこの状況に置かれたらどのように行動するか、検討する。答えはすぐに出た。しかし、何かが足りない。検討を重ねる。そして、ある結論に達した。 『彼』が取るであろう行動を、『わたしらしく』実行すること。 わたしは立ち上がると、涼宮ハルヒのそばに寄った。 「……有希……?」 涼宮ハルヒは不安そうにわたしの顔を見つめる。 「このような時、わたしは掛けるべき自分の言葉を知らない。だから、ある歌の一部を引用する。適切な引用であるかは分からない。自分の言葉ではなく、借り物の言葉であることを許してほしい。」 そしてわたしはある歌の歌詞を朗読する。 『悲しみこらえて/ほほえむよりも/涙かれるまで/泣くほうがいい』 わたしは涼宮ハルヒの頭を優しく抱き締めて、言葉を続ける。 『人は悲しみが/多いほど/人には優しく/できるのだから』 恐らく『彼』なら、このような言葉を掛けると予想される。 「これがわたしがあなたへ『贈る言葉』。今のわたしにはこれしかできない。」 涼宮ハルヒは堰を切ったように、わたしの胸の中で声を上げて泣いていた。彼女の持つ熱がわたしの胸に伝わってくる。わたしの中に『何か』が湧き上がる。上手く言語化できない。いつかはこの『何か』の正体を理解し、言語化できるようになるのだろうか。 わたし達は暮れなずむ教室の光と影の中、ただじっと抱き合っていた。その時わたしには、『観察対象に影響を与えること』についての懸念は少しもなかった。あえて言えば、『観察対象の保全』に全力を挙げていたと言えるだろうか。 ……言い訳じみている。正直に告白する。その時わたしは、涼宮ハルヒの様子に『突き動かされた』。『彼』の行動をエミュレートしたはずだが、それはほとんどわたしという個体の制御できない行動だったかもしれない。その時わたしを突き動かしたものは、もう『感情』と呼んでも良いのかもしれない。とにかくわたしは、その時『彼女を抱き締めたい』と思い、同時にそうしていた。 もう、『エラー』と呼ぶのはやめることにする。真剣に、このわたしを突き動かした衝動について考察したい。情報統合思念体によって創られた、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス、『人』ではないわたしにも『感情』が生まれるのかを。この時わたしは、感情の涙を流す機能がないことを残念に思っていた。 ……彼女の感情を、悲しみを、寂しさを、共有したかった。分かち合いたかった。 「うっ、ひくっ。うっ……」 わたし達以外誰もいない教室に、彼女の泣き声だけが遠く響く。わたしが今まで読んできた本の登場人物たちは、このような時、大抵相手が泣き止むまでそっと寄り添っていた。わたしもそれに従うことにする。 しばらくして、彼女は泣き止んだ。 「はぁ……何か、思いっきり泣いたらスっとしたわ。こんなに泣いたん、何年ぶりやろ? こんな弱いとこ、人に見せたなかったから……」 【はぁ……何か、思いっきり泣いたらスっとしたわ。こんなに泣いたの、何年ぶりかしら? こんな弱いとこ、人に見せたくなかったから……】 「……そう。」 「何でやろ、不思議やな……有希、あんたにだけは、あたしの弱いとこも見せられる気がしてん。……ありがとう、有希。」 【何でだろ、不思議だな……有希、あんたにだけは、あたしの弱いとこも見せられる気がしたの。……ありがとう、有希。】 「いい。わたしは、あなたがわたしをそうしても良い相手と認識していることを、嬉しく、思う。」 多分これは『わたし』という個体から発せられた素直な言葉だと思う。人間が己の弱みを見せても良いと判断する相手は、その個体にとって特別な存在なのだという。わたしは彼女にとって、特別な存在。恐らく、団長と団員という関係以上の。 「あーあー。な~んか、家に帰りたないな~」 【あーあー。な~んか、家に帰りたくないな~】 これは彼女の本心だろう。 「家に帰ったら、またあの変な奴らや変な電話の相手せなあかんのかと思うと、ほんま、憂鬱やわ~」 【家に帰ったら、またあの変な奴らや変な電話の相手しなきゃならないのかと思うと、ほんと、憂鬱だわ~】 彼女はわたしの顔を見つめ、ふっ、と表情を緩める。 「でも、何でか、反省はしてるけど、後悔はしてへんねん。今回のことで、あたしは只今不愉快街道まっしぐらやけど、おかげで、気付けたことがある。同じ立場にならんと、人の気持ちって分からんもんやね。今ならあたしは、あの子にどんな酷いことをしたか分かる。今回みたいな経験がなかったら、あたし、ずっと人の痛みが分からん人間やったと思う。今は確かに辛いけど、少しの間やと信じてるんや。ほら……」 【でも、なぜか、反省はしてるけど、後悔はしてないのよ。今回のことで、あたしは只今不愉快街道まっしぐらだけど、おかげで、気付けたことがある。同じ立場にならないと、人の気持ちって分からないものよね。今ならあたしは、あの子にどんな酷いことをしたか分かる。今回みたいな経験がなかったら、あたし、ずっと人の痛みが分からない人間だったと思う。今は確かに辛いけど、少しの間だと信じてるわ。ほら……】 彼女は人差し指を立て、片目を閉じながら言った。 「『人の噂も四十九日』、って言うやろ?」 【『人の噂も四十九日』、って言うでしょ?】 「……それを言うなら『七十五日』。」 彼女は酷く赤面した。 【挿入歌:海援隊『贈る言葉』,1979,ポリドール】 ←Report.03|目次|Report.05→
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Report.04 涼宮ハルヒの認識(後編) 朝、廊下。わたしはいつもの時間に登校して、いつものように自分の教室へ向かっていた。 前を見ると、涼宮ハルヒが、手に紙束を持ち、わたしに向かって歩いてきた。そしてわたしの近くまで来ると、突然、 「わっ!?」 何もないところで躓いて転んだ。手に持っていた紙束が主にわたしに向けて盛大に撒き散らされる。 「わっ、わっ、わっ……!?」 涼宮ハルヒはあたふたしながら紙を拾い集めだした。 「あっ、そ、そこの、カーディガンの人! てっ、手伝ってくれませんかっ!?」 わたしの目を見て必死に何かを訴えかけながら言った。 涼宮ハルヒのすることには必ず理由がある。わたしは肯くと、紙を拾い集めるのを手伝った。散らばった紙をすべて拾い集め、わたしが拾った分を涼宮ハルヒに手渡そうとすると、彼女は素早くわたしの手首を両手で掴むと、一気に自分の近くに引き寄せた。 「あ、あのっ、ありがとうございますぅ~」 涼宮ハルヒは目を潤ませ、顔を近づけながら礼を言った。相当顔が近い。わたしの視界が涼宮ハルヒの顔で埋まる。紙束で隠れる格好となった涼宮ハルヒの手が、わたしの胸元をまさぐった。かなり乱暴な手つき。 「あのっ、それではこれでっ。あっ、ありがとうございましたぁ~っ!!」 すぐに涼宮ハルヒは立ち上がり、そそくさと立ち去った。 わたしは教室に入り、自分の席に着くと、いつものように本を取り出し読み始めた。そして本で死角を作りながら、先ほど涼宮ハルヒにまさぐられた自分の胸元を確認する。 やはり、紙片が残されていた。内容を確認する。 『今日の放課後、誰もいなくなったら、あたしの教室で。』 放課後、いつもの部室。三人しかいない最近の風景。時折朝比奈みくるがお茶のお替りを淹れる以外、誰も何も言わない。わたしがパタンと本を閉じると、皆は帰り支度を始める。これだけが、あの日以前から変わらないこの部室の風景。 彼らには、涼宮ハルヒからの呼び出しのことは伝えていない。涼宮ハルヒは他の団員と接触を絶つなか、芝居を打ってまでわたしに接触してきた。その行為の意味を推測し、わたしが単独で接触するのが妥当と判断した。 わたしは皆と別れ部室を出ると、涼宮ハルヒが待つ教室へと向かった。教室の扉を開ける。涼宮ハルヒは自席に座っていた。 「あ……」 涼宮ハルヒはわたしの姿を見ると、安堵した表情になる。しかしすぐに真剣な顔で辺りをキョロキョロと見回す。 「この教室の近辺に人はいなかった。ネットワーク上の書き込みを分析すると、最近この学校がセキュリティを強化したため、彼らは校内には一切立ち入れない。ここは安全。」 そこまで言うと、ようやく涼宮ハルヒは本当に安堵した。 「ふぅ~。あ、有希、早(はよ)こっち来て座って。」 自分の前の席を指して言う。わたしは肯くと、念のため教室の扉の鍵を情報改変した。これでこの教室は、内側からしか扉を開けられない。 「いつどこで誰に見られてるか分からへんから、なかなかみんなに近付かれへんかって。今朝、何とか有希にメモを渡せて良かった。気付いてくれへんかったらどうしようか思(おも)たわ。」 【いつどこで誰に見られてるか分からないから、なかなかみんなに近付けなくて。今朝、何とか有希にメモを渡せて良かった。気付いてくれなかったらどうしようかと思ったわ。】 わたしは涼宮ハルヒの顔を見ながら、無言で頷いた。 「さて……わざわざ呼び出したんは他でもない。あんたに見てほしいもんがあんねん。」 【さて……わざわざ呼び出したのは他でもない。あんたに見てほしいものがあるの。】 そう言うと涼宮ハルヒは、鞄から封筒を取り出してわたしに手渡した。 「読んでみて。」 わたしは封筒の中身を取り出す。中には便箋が入っていて、達筆だが読みやすい丁寧な字がしたためられていた。わたしはその手紙を読んだ。 前略 二度と近付かないという約束を破っての、突然の手紙で失礼いたします。これだけはどうしても伝えなければならないと思い、筆を執りました。 先日は、あのように大変失礼な行動であなたに多大な迷惑を掛けてしまいました。真に申し訳ございませんでした。深くお詫び申し上げます。 当時はそのような立場に置かれた時、どれだけ不愉快な思いをするか全く感じることができませんでした。現在、私は同じような立場に置かれ、あの時私があなたにしたことと同じようなことをされています。そのような状況になって初めて、あの時あなたがどのような気持ちでいたか思い至ることができました。 今に至るまで人の痛みを知らず気付かなかった、己の不明を深く恥じます。 いくら言葉を重ねても謝罪には程遠いこととは存じますが、せめてもの誠意をと思い、こうして手紙という形でお伝えさせていただきました。今後は二度とあなたの周囲に近付くことはしないと約束します。 このような手紙を見てあの時を思い出し、また不愉快な思いをさせてしまったかもしれません。重ねてお詫び申し上げます。真に申し訳ありませんでした。 草々 涼宮ハルヒ 「……どう……?」 涼宮ハルヒは、不安そうな顔でわたしを窺っている。 「あたし、こんな状況になって初めて、気ぃ付いたことがあんねん。」 【あたし、こんな状況になって初めて、気が付いたことがあるのよ。】 涼宮ハルヒは、当時は分からなかった少女Aの気持ちに、自分が同じような立場に置かれて初めて気付いたこと、今まで全く他人の気持ちを推し量ることを知らなかったことを少女Aに伝え、謝罪したいという。 しかし、先日の一件で会わないことを約束し、また自分もどのような顔で会えば良いのかわからないので、手紙という手段を使って謝罪の気持ちを伝えることにした。そして、謝罪の手紙を書くのは初めてのことなので、先方に失礼のないよう、わたしに内容を確かめてほしいと言ってきた。 「あたし、こんな真面目な手紙なんか書くん初めてやし、どんなこと書いたらええんか分からへんから……有希は物知りやし、いっつもいっぱい本読んどぉやろ? せやから……な? お願い。」 【あたし、こんな真面目な手紙なんか書くの初めてだし、どんなこと書いたら良いのか分からないから……有希は物知りだし、いつもいっぱい本を読んでるじゃない? だから……ね? お願い。】 わたしに、『心からの謝罪の手紙』の添削など、できるのだろうか? わたしは、何度も何度も手紙を読み返した。しばらくして、言う。 「問題ない、と思う。」 「ほんま!? 何か失礼なこととか、書いてへん? 書かなあかんこと書き忘れてへん?」 【ほんと!? 何か失礼なこととか、書いてない? 書かなきゃならないこと書き忘れてない?】 「あなたは自分の今の気持ちを彼女に伝え、謝罪したいと思った。この文面で気持ちは伝わると思う。」 そしてわたしは少し考え、こう付け足した。 「言葉だけで思いをすべて伝えるのは難しい。でも、たぶん大丈夫。」 涼宮ハルヒはしばらくわたしの顔を見て、そして肯いた。 「有希……ありがとう。」 涼宮ハルヒの目尻には、輝くものがあった。 「有希、ごめんやけど……ちょっと、あたしの話聞いてくれへんかな? こんなこと、人に話すようなこと違(ちゃ)うと思うんやけど、何か、誰かに聞いてほしい気分やねん……」 【有希、悪いけど……ちょっと、あたしの話聞いてくれないかな? こんなこと、人に話すようなことじゃないと思うんだけど、何か、誰かに聞いてほしい気分なのよ……】 「いい。」 「こんなこと、人に話すんは恥ずかしいんやけど……有希になら、話せるような気がして。」 【こんなこと、人に話すのは恥ずかしいんだけど……有希になら、話せるような気がして。】 「そう。」 そして涼宮ハルヒは、自分の生い立ち、誰も自分のわがままを止めなかったことを話し始めた。それは先日『彼』が推測した通りだった。 「それでな? あたしが何言(ゆ)うても、周りの人は何も言わへんねん。最初は、別に嫌やないんかなと思(おも)ててん。でも、だんだん、違うってことが分かった。みんな、あたしのこと本気で相手にしてへんかったんや。誰一人として。あたしはいつの間にか……一人ぼっちになっとった。」 【それでね? あたしが何を言っても、周りの人は何も言わないの。最初は、別に嫌じゃないのかなと思ってた。でも、だんだん、違うってことが分かった。みんな、あたしのこと本気で相手にしてなかったんだ。誰一人として。あたしはいつの間にか……一人ぼっちになってた。】 涼宮ハルヒは続ける。 「あたしは……えーと、こんなこと打ち明けるん、有希が初めてやで? せやからみんなには内緒にしといてや? ……一人で必死になって、真剣になって、でも周りの人は誰も相手にしてくれへんかって……寂しかった。」 【あたしは……えーと、こんなこと打ち明けるの、有希が初めてよ? だからみんなには内緒にしといてよ? ……一人で必死になって、真剣になって、でも周りの人は誰も相手にしてくれなくて……寂しかった。】 涼宮ハルヒは、今にも泣き出しそうな顔で、そう言った。 「『ちゃんとあたしを見て!』って叫びたかった。あたしが悪いことをしたら、ちゃんと叱ってほしかった。真剣にあたしと向き合ってほしかった。でも……誰も見てくれへんかった。寄って来るんは、『顔が可愛い』からってだけで電話で告白してくるような奴ぐらいやった。」 【『ちゃんとあたしを見て!』って叫びたかった。あたしが悪いことをしたら、ちゃんと叱ってほしかった。真剣にあたしと向き合ってほしかった。でも……誰も見てくれなかった。寄って来るのは、『顔が可愛い』からってだけで電話で告白してくるような奴ぐらいだった。】 涼宮ハルヒは切々と訴え続けた。普段の『SOS団団長』涼宮ハルヒの面影は全くない。そこにいるのは『自律進化の可能性』でも『時間断層の中心』でも『神のごとき存在』でもない。『人間』涼宮ハルヒ。一人の『少女』だった。 情報統合思念体は、『「彼」の動向に注意を払い、わたしが最善と考える行動を取る』ことを指示した。今この場に『彼』はいないが、もし『彼』がこの状況に置かれたらどのように行動するか、検討する。答えはすぐに出た。しかし、何かが足りない。検討を重ねる。そして、ある結論に達した。 『彼』が取るであろう行動を、『わたしらしく』実行すること。 わたしは立ち上がると、涼宮ハルヒのそばに寄った。 「……有希……?」 涼宮ハルヒは不安そうにわたしの顔を見つめる。 「このような時、わたしは掛けるべき自分の言葉を知らない。だから、ある歌の一部を引用する。適切な引用であるかは分からない。自分の言葉ではなく、借り物の言葉であることを許してほしい。」 そしてわたしはある歌の歌詞を朗読する。 『悲しみこらえて/ほほえむよりも/涙かれるまで/泣くほうがいい』 わたしは涼宮ハルヒの頭を優しく抱き締めて、言葉を続ける。 『人は悲しみが/多いほど/人には優しく/できるのだから』 恐らく『彼』なら、このような言葉を掛けると予想される。 「これがわたしがあなたへ『贈る言葉』。今のわたしにはこれしかできない。」 涼宮ハルヒは堰を切ったように、わたしの胸の中で声を上げて泣いていた。彼女の持つ熱がわたしの胸に伝わってくる。わたしの中に『何か』が湧き上がる。上手く言語化できない。いつかはこの『何か』の正体を理解し、言語化できるようになるのだろうか。 わたし達は暮れなずむ教室の光と影の中、ただじっと抱き合っていた。その時わたしには、『観察対象に影響を与えること』についての懸念は少しもなかった。あえて言えば、『観察対象の保全』に全力を挙げていたと言えるだろうか。 ……言い訳じみている。正直に告白する。その時わたしは、涼宮ハルヒの様子に『突き動かされた』。『彼』の行動をエミュレートしたはずだが、それはほとんどわたしという個体の制御できない行動だったかもしれない。その時わたしを突き動かしたものは、もう『感情』と呼んでも良いのかもしれない。とにかくわたしは、その時『彼女を抱き締めたい』と思い、同時にそうしていた。 もう、『エラー』と呼ぶのはやめることにする。真剣に、このわたしを突き動かした衝動について考察したい。情報統合思念体によって創られた、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス、『人』ではないわたしにも『感情』が生まれるのかを。この時わたしは、感情の涙を流す機能がないことを残念に思っていた。 ……彼女の感情を、悲しみを、寂しさを、共有したかった。分かち合いたかった。 「うっ、ひくっ。うっ……」 わたし達以外誰もいない教室に、彼女の泣き声だけが遠く響く。わたしが今まで読んできた本の登場人物たちは、このような時、大抵相手が泣き止むまでそっと寄り添っていた。わたしもそれに従うことにする。 しばらくして、彼女は泣き止んだ。 「はぁ……何か、思いっきり泣いたらスっとしたわ。こんなに泣いたん、何年ぶりやろ? こんな弱いとこ、人に見せたなかったから……」 【はぁ……何か、思いっきり泣いたらスっとしたわ。こんなに泣いたの、何年ぶりかしら? こんな弱いとこ、人に見せたくなかったから……】 「……そう。」 「何でやろ、不思議やな……有希、あんたにだけは、あたしの弱いとこも見せられる気がしてん。……ありがとう、有希。」 【何でだろ、不思議だな……有希、あんたにだけは、あたしの弱いとこも見せられる気がしたの。……ありがとう、有希。】 「いい。わたしは、あなたがわたしをそうしても良い相手と認識していることを、嬉しく、思う。」 多分これは『わたし』という個体から発せられた素直な言葉だと思う。人間が己の弱みを見せても良いと判断する相手は、その個体にとって特別な存在なのだという。わたしは彼女にとって、特別な存在。恐らく、団長と団員という関係以上の。 「あーあー。な~んか、家に帰りたないな~」 【あーあー。な~んか、家に帰りたくないな~】 これは彼女の本心だろう。 「家に帰ったら、またあの変な奴らや変な電話の相手せなあかんのかと思うと、ほんま、憂鬱やわ~」 【家に帰ったら、またあの変な奴らや変な電話の相手しなきゃならないのかと思うと、ほんと、憂鬱だわ~】 彼女はわたしの顔を見つめ、ふっ、と表情を緩める。 「でも、何でか、反省はしてるけど、後悔はしてへんねん。今回のことで、あたしは只今不愉快街道まっしぐらやけど、おかげで、気付けたことがある。同じ立場にならんと、人の気持ちって分からんもんやね。今ならあたしは、あの子にどんな酷いことをしたか分かる。今回みたいな経験がなかったら、あたし、ずっと人の痛みが分からん人間やったと思う。今は確かに辛いけど、少しの間やと信じてるんや。ほら……」 【でも、なぜか、反省はしてるけど、後悔はしてないのよ。今回のことで、あたしは只今不愉快街道まっしぐらだけど、おかげで、気付けたことがある。同じ立場にならないと、人の気持ちって分からないものよね。今ならあたしは、あの子にどんな酷いことをしたか分かる。今回みたいな経験がなかったら、あたし、ずっと人の痛みが分からない人間だったと思う。今は確かに辛いけど、少しの間だと信じてるわ。ほら……】 彼女は人差し指を立て、片目を閉じながら言った。 「『人の噂も四十九日』、って言うやろ?」 【『人の噂も四十九日』、って言うでしょ?】 「……それを言うなら『七十五日』。」 彼女は酷く赤面した。 【挿入歌:海援隊『贈る言葉』,1979,ポリドール】 ←Report.03|目次|Report.05→
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Report.05 涼宮ハルヒの困惑 「あなたに提案がある。」 わたしは言った。 「わたしの部屋に来て。」 彼女は目を丸くする。 「あなたは強烈なストレスに晒され続けている。気晴らしが必要。」 「ちょ、ちょぉ待ちぃな!」 【ちょ、ちょっと待ってよ!】 彼女は慌てて言う。 「そりゃぁ、あたしだって、家には帰りたくない気分やし、誰かと一緒にいたい気分やで? せやけど、有希と一緒におったら、有希まで変な奴らにマークされてまうやんか!」 【そりゃぁ、あたしだって、家には帰りたくない気分だし、誰かと一緒にいたい気分よ? だけど、有希と一緒にいたら、有希まで変な奴らにマークされちゃうじゃない!】 「大丈夫。」 「何が!?」 「わたしのマンションはオートロック。他にも多数の仕掛けがある。あなたの家より部外者は侵入しにくい。」 「そういうことやなくて! あたしと一緒におるところを見られたら、有希まで一緒に変なことされるって!」 【そういうことじゃなくて! あたしと一緒にいるところを見られたら、有希まで一緒に変なことされるって!】 「へいき。」 わたしは彼女を真っ直ぐに見ながら言う。 「わたしに考えがある。」 「考え?」 「そう。」 彼女は、何を言い出すのかという表情でわたしを見ている。 「マンション内は部外者が侵入しにくい。入ってしまえば安全。校内も同様。問題は学校を出てからマンションに入るまで。この間、あなたがあなたであると分からないようにすれば良い。」 わたしは、鞄からあるものを取り出した。 「これを使う。」 彼女は呆気に取られていた。 「有希……前々から思ってたんやけど、言(ゆ)うて良い?」 【有希……前々から思ってたんだけど、言って良い?】 「なに。」 「あんた、実はめちゃめちゃ大胆やな……」 【あんた、実はめちゃ大胆よね……】 彼女は、わたしが取り出したものを見て、すぐにわたしの提案を理解していた。 「ていうか、何でこんなもん、持ってんの?」 【ていうか、何でこんなもの、持ってんの?】 「この教室に来る前に、演劇部から拝借した。」 本当は情報連結で作成したのだが、それは伏せておく。わたしが取り出したものは、この高校の『男子』制服だった。 「まさか男装を迫られるなんてなぁ……」 【まさか男装を迫られるなんてねえ……】 彼女はまるで『彼』の真似をするように、やれやれと肩をすくめた。 「ま、こういうのもたまには意外性があっておもろいかもね!」 【ま、こういうのもたまには意外性があって面白いかもね!】 そう言うと、彼女は『男子の制服』に着替え始めた。 「ところで、有希。服を替えるのは、まあ分かるとして、肝心の顔とか頭はどうすんの?」 「これを使う。」 わたしは、バンダナと眼鏡を取り出した。眼鏡は以前私が掛けていたものと同じ意匠。 「その辺もぬかりはないってわけね……」 程なくして、頭をバンダナで覆い、眼鏡を掛けた、可愛らしい『男子生徒』ができあがった。先日言語化に成功した『何か』がわたしの中に湧き上がる。 「萌え……」 「ん? 何(なん)か言(ゆ)うた?」 【ん? 何(なん)か言った?】 「なんでも。」 声に出ていたようだ。 彼女は変装が終わると、鏡でしきりに自分の姿を確かめていた。手持ちの鏡では全身が見られないため、『男子便所』の鏡で。 「へぇー、ほぉー、ふぅーん。」 彼女はあらゆる角度から、生まれ変わった自分の姿を確かめていた。 「どう見ても小柄な男の子です、本当にありがとうございました!」 学校からの帰り道。わたしと涼宮ハルヒは並んで歩いていた。 お互いに無言。心拍数の増加を検出。彼女(今は彼)は緊張している。 「なあ有希……今からあた……んんっ。お、俺が独り言を言うけど、気にせんとってくれ。こんなこと言(ゆ)うんも、多分、いつもと違う、ありえへん状況やからやろな。……こ、こんな可愛い娘と一緒に帰ってるんや。て、ててて、手ぇとか繋いでみたいな~、なんて……」 【なあ有希……今からあた……んんっ。お、俺が独り言を言うけど、気にしないでくれ。こんなこと言うのも、多分、いつもと違う、ありえない状況だからだろうな。……こ、こんな可愛い娘と一緒に帰ってるんだ。て、ててて、手とか繋いでみたいな~、なんて……】 涼宮ハルヒは明後日の方を向きながら言う。声が裏返っている。 「べ、別に変な意味違(ちゃ)うで!? お、おっ、『男』なんやから、そんなこと思(おも)てまうんも自然なことやろ!?」 【べ、別に変な意味じゃないぞ!? お、おっ、『男』なんだから、そんなこと思ってしまうのも自然なことだろ!?】 わたしはややあって、彼女(彼)の手を握った。 その手はじんわりと汗ばんでいる。……わたしの手も汗ばんでいたかもしれない。 彼(彼女)は耳まで赤くしていた。……わたしの顔も赤くなっていただろうか。 なぜ彼女(彼)は急にこんなことを言い出したのだろうか。理由はいろいろあるだろう。 彼女(彼)は間違いなく今回の件で疲れていた。先ほど教室で自らの過去を語ったのも、ついこぼしてしまった本音という面があるだろう。 しかしわたしは、また別の理由を想起した。彼女は孤独なのだ。表面上は明るく振舞っているが、真剣に自分と向き合おうとしない周囲に苛立っていた。そしてついには失望した。閉鎖空間を発生させ、世界を変えてしまおうとするほどに。 SOS団を結成してから、時が流れ、彼女は明るく、人が丸くなったと周囲は評価している。確かに、自分の言うことを聞き、付き合ってくれる仲間を得て、孤独が解消されたと言えるだろう。……表面上は。 だが、内実はどうだろう? わたしはあの日の『彼』の言葉を思い出す。 『みんなは、後の影響が怖くてよう物も言われへんイエスマンや。』 【みんなは、後の影響が怖くてろくに物も言えないイエスマンだ。】 古泉一樹は、『機関』の構成員として、閉鎖空間の発生を恐れている。 朝比奈みくるは、未来人として、既定事項と禁則事項に縛られている。 わたしは、観測者として、極力観測対象に影響を与えないように行動してきた。 『彼』だけが唯一、自らの判断と責任において行動できる自由な存在だが、結局は涼宮ハルヒの言動に振り回され、状況に流されてしまっている面は否定できない。 SOS団でさえも、涼宮ハルヒが真に求める『時には叱ってでも自分と真剣に向き合ってくれる存在』ではなかった。 わたしは、自分の状況と心境を振り返ってみた。 生み出されてから三年間、わたしはずっとひとりで待っていた。時間遡行してきた『彼』が訪ねてきて、わたしは将来自分が置かれる立場、自分が起こす事件を知る。活動期に入り、SOS団が結成されて彼女達に出会い、共に行動してきた。そこでもわたしは、観測者として必要最小限の介入で済むよう努めてきた。観測者として余計である、感情を表す機能は、わたしには持たされていない。いつしかわたしは、『無口だが頼れる団員』、『SOS団随一の万能選手』と位置付けられた。 人間には『朱に交われば赤くなる』という言葉がある。 人間と共に行動していると、たとえ作り物の命であってもいずれは感情が宿るらしい。まして涼宮ハルヒと『彼』は、二人揃うと周囲の関係した者達を残らず変えてしまう力を持っている。その影響はSOS団員も……わたしも例外ではなかった。 わたしの中に『感情』が宿り、芽吹いて茂り、花開いた。SOS団員と共に行動するうちに、最初はまだまだ未熟だった感情も、いつしか大きく成長していた。 しかし、それを表出することは許されない。観測対象である涼宮ハルヒは、わたしを『無口キャラ』と定義していた。観測対象へ与える印象が変わっては不都合。そうして時を過ごし、延々と繰り返される夏を超えて冬、わたしは世界を改変する事件を起こした。 事件を通して、わたしは抑圧された感情は暴走することを知った。わたしに感情が存在することに気付いた『彼』の存在が、今わたしの暴走を防いでいる。『彼』になら、たとえわたしの感情をぶつけてしまったとしても、大丈夫だと思えるから。 ……彼女には、そのような存在がいない。 『一人でいるのは寂しい』と思いながら、その思いを表すことができない。誰と一緒にいても、どんなことをしていても、内実は孤独。孤独であることを何とも思っていないように装っているが、本当は何より孤独が辛い。 『たった一人でも良い、誰か真剣にあたし(わたし)と向き合ってほしい。』 『たった一人でも良い、誰かありのままのあたし(わたし)を見てほしい。』 傍若無人、我が道を突き進む無敵の少女の姿の裏で。 無表情、何事にも動じない無謬の少女の姿の裏で。 自らをさらけ出せる、信じられる、本当に心を許せる存在を渇望している。 わたしと彼女は、同類だった。信じられる存在が、いるか、いないか。ただそれだけが両者の違い。 マンションから近いコンビニエンスストアまで来た。わたしは、ここで食料を調達して帰ることもある。『彼』は誤解しているようだが、わたしは決してカレーばかり食べているわけではない。 しかし、食事以外のもの、例えば飲み物やお菓子は買っていないのも確か。今日は、涼宮ハルヒという『お客さん』もいる。何か買っていった方が良いと判断した。 「わたしの部屋には、わたしの分の食事しかない。ここで何か買っていこうと思う。」 わたしは彼女(彼)の手を離して、言った。 「え? ああ、そっか、あた……もとい、俺が増えるんやな。ほな、何(なん)か買(こ)うてこか。」 【え? ああ、そっか、あた……もとい、俺が増えるんだな。じゃあ、何か買っていこうか。】 わたし達は店内に入っていった。 「何買おかな~? あ、『甘くない炭酸』ある! 俺、コレめっちゃ好きやねんわ~」 【何買おうかな~? あ、『甘くない炭酸』がある! 俺、コレめちゃ好きなんだよな~】 彼女(彼)は、他にも様々な菓子を籠に入れていく。わたしは、あるものを手に取った。 「あれ? 有希、トラベルセットなんか買(こ)うてどうすんねん?」 【あれ? 有希、トラベルセットなんか買ってどうすんだ?】 「あなたに必要になる。客用の洗面具は部屋にない。」 「……えっと。話が見えへんねんけど??」 【……えっと。話が見えないんだが??】 わたしは彼女(彼)の瞳を見つめながら言った。 「あなたが泊まるために必要。」 彼女(彼)は籠を取り落とした。目を丸くし、口を開けてわたしの顔を眺めている。 「……………………」 これはわたしの台詞ではない。彼女(彼)が呆気に取られている。 「あなたは家に帰りたくないと言った。」 「そ、それは確かに言(ゆ)うたけど……」 【そ、それは確かに言ったけど……】 「気晴らしの方法の一つは、誰かに話をすること。今のあなたに必要と判断した。」 それに、と言葉を続ける。 「わたしもあなたの話が聞きたい。だめ?」 彼女(彼)は瞬きを数回した。 「えっと、有希がええんやったら、その……泊まらしてもらうわ。」 【えっと、有希が良いなら、その……泊まらせてもらうぞ。】 「そう。」 「何(なん)か……今日は、有希の意外な面をいろいろ見せられてる気がするなぁ……」 彼女(彼)は、困惑した表情で頬を掻きながら呟いた。 マンションに着く。いつものようにロックを解除し、エレベーターで部屋に向かう。 「入って。」 「お邪魔しまーっす♪」 彼女(彼)は部屋に入ると、キッチンに買い物袋を置き、リビングに向かった。 「とりあえず、コレ取るわ。」 【とりあえず、コレは取るわ。】 彼女(彼)は眼鏡とバンダナを取る。わたしはキッチンに入ると、湯を沸かしながら買った物を冷蔵庫に入れ始めた。 「あ、有希。手伝うわ。」 「いい。座ってて。」 お客さん、と言うわたしを制して、彼女は言った。 「まあ、ええからええから。あたしが手伝いたいんやって。」 【まあ、良いから良いから。あたしが手伝いたいんだって。】 「……では、冷蔵庫に入れない物を持って行って。」 「りょーかい♪」 彼女は、お菓子等をリビングに運んで行った。わたしは飲み物等を冷蔵庫に入れ終わると、お茶と大皿を持って、リビングへ向かった。 「あ、ありがとー♪」 コタツに着いた彼女は、お茶を受け取りながら言った。 「うーん、男の格好で女の子の部屋にお呼ばれするのって、何か妙な感じやわ。って、有希! よぉ考えたら、あんた、傍から見たら自分の部屋に男連れ込んだことになるやん!?」 【うーん、男の格好で女の子の部屋にお呼ばれするのって、何か妙な感じだわ。って、有希! よく考えたら、あんた、傍から見たら自分の部屋に男連れ込んだことになるじゃない!?】 「……確かに。」 「うわっ、そう考えたら、何(なん)か急に恥ずかしくなってきた!」 彼女は見る見る顔が赤くなっていく。 「うっわー、有希、大っ胆~!!」 顔を真っ赤にしながら、彼女は笑って言った。 「んっふっふ~。それなら大胆な有希ちゃんの要望にお応えして、おにーさん、大胆にあ~んなことやこ~んなことしちゃおっかな~? な~んて♪」 彼女は手をひらひらと振りながらお茶に口をつける。わたしは言った。 「……百合?」 ぶふ――――――――――――――――――――――――――――――――――っ!! 彼女は盛大にお茶の霧を吹いた。 「げほげほっ、げほっ」 彼女はむせている。 「こほっ! はぁ、はぁ、はぁ……」 「拭くものを取ってくる。」 「あ、あんたが変なこと言うからやんかっ! いきなり何(なん)ちゅうこと言い出すんや、この娘は……」 【あ、あんたが変なこと言うからじゃないのっ! いきなり何(なん)てこと言い出すのよ、この娘は……】 わたしは布巾で後始末をする。 「何(なん)か……今日はあんたにドキドキさせられっぱなしやな。」 【何(なん)か……今日はあんたにドキドキさせられっぱなしね。】 「そう。」 「普段、あんだけ無口やのに今日はやけによぉ喋るし……何(なん)かあったん?」 【普段、あんだけ無口なのに今日はやけによく喋るし……何(なに)かあったの?】 「なにも。」 「いつもとキャラ違(ちゃ)うで? 何があんたをこんなに変えたん?」 【いつもとキャラ違うわよ? 何があんたをこんなに変えたの?】 「べつに。」 こう答えると嘘になるのかもしれない。彼女達と共に行動するようになって、わたしは少しずつ、しかし確かに変化した。もっとも、今日のわたしは、確かに少しおかしいかもしれない。 「ま、まぁ、人間誰しも、普段とは別の顔を持ってるもんやし。今日は有希の意外な一面が見られたってことで! うん、そういうことにしとこ! ……有希の場合、普段とのギャップがありすぎて、その、ちょっとアレやけど……」 【ま、まぁ、人間誰しも、普段とは別の顔を持ってるもんだし。今日は有希の意外な一面が見られたってことで! うん、そういうことにしとこう! ……有希の場合、普段とのギャップがありすぎて、その、ちょっとアレだけど……】 彼女は気を取り直し、スナック菓子の袋を開け始めた。 「……惚れた?」 ばり――――――――――――――――――――――――――――――――――ん!! 彼女はスナック菓子の袋を盛大に引きちぎった。 「全部皿の中に入った。見事。」 「……一瞬、こうなる予感がして、お皿の上に持って行ってん……」 【……一瞬、こうなる予感がして、お皿の上に持って行ったのよ……】 彼女は、わたしの瞳を見つめながら言った。 「有希……言(ゆ)うても良い?」 【有希……言っても良い?】 「なに。」 「あんた……実はめちゃめちゃおもろい娘違(ちゃ)うか?」 【あんた……実はすっごく面白い娘なんじゃない?】 「……さあ。」 わたしはいつもの顔で答えた。 ←Report.04|目次|Report.06→
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Report.06 長門有希の陥落 いつもと違う、ちょっとおかしい(主に服装が)彼女と、いつもと違う、ちょっとおかしい(主に言動が)わたしの、いつもと違う、ちょっとおかしい(主に空気が)風景。 お茶を霧にしたり、お菓子の袋を引きちぎったりと忙しい彼女だったが、それでも次第にくつろぎ、話をし始めていた。 わたしはお茶のお替りを淹れたり、飲み物を取ってきたり、お菓子を食べたりしながら、彼女の話を聞いていた。 正確に言うと、話をしている彼女を見ていた、となるかもしれない。 彼女の話す内容は様々だった。普段部室やSOS団の活動中に話しているような内容もあれば、自分の身の上話、国際政治や領土問題から、芸能に今夜のおかずまで。彼女の興味の対象は幅広い。聞いていて飽きない、という感想を相対した人間は持つだろうと予想された。 ただ、それでも全体的な傾向としては、平均的な女子高生の会話の内容といえた。見識や考察が、平均的な女子高生を凌駕しているだけで。 そのまま食事に移行する。コンビニエンスストアの弁当。 わたしは味覚から得られる情報には特に重きを置いていないが、今日の弁当は普段よりも、人間の言葉で言うところの『美味しい』ものだった。 「ぷっは~~~! やっぱり食事にはコレやね!!」 【ぷっは~~~! やっぱり食事にはコレよね!!】 彼女は、『甘くない炭酸』を飲みながら言った。 「あたし、前から甘ったるい炭酸飲料しか売ってへんことが不満やってん。外国ではむしろ『ノンガス』って頼まんと、『水』を頼んだら『炭酸水』が出てくるっていうし。今まではカクテル用のソーダで我慢してたんやけど、最近はいろいろ選べるようになったわ。やっと時代があたしに追いついてきたんやなぁ。」 【あたし、前から甘ったるい炭酸飲料しか売ってないことが不満だったの。外国ではむしろ『ノンガス』って頼まないと、『水』を頼んだら『炭酸水』が出てくるっていうし。今まではカクテル用のソーダで我慢してたんだけど、最近はいろいろ選べるようになったわ。やっと時代があたしに追いついてきたのねえ。】 彼女は、しみじみと言った。 『誰かと一緒に取る食事』は、『一人で取る食事』よりも『美味しい』。今日初めて知ったこと。 食後は、お茶を飲みながらのんびりと過ごす。彼女の希望で、TVやラジオは電源を入れていない。あれだけの取材攻勢を掛けられ、大衆の好奇心に弄ばれた。いや、今も弄ばれている。当分は見たくもないのだろう。何事もなかったかのように明るく振舞っているが、やはりその心中は穏やかではない模様。 彼女が哀れだと思った。そして、なぜかそばに居たいと思った。 そろそろ食事から時間が経った。入浴を提案しよう。 「お風呂の準備をする。それともシャワー?」 「あ、溜めて溜めて。」 「了解した。」 わたしは席を立ち、湯船にお湯を張る準備をして、また席に戻った。 「あなたから入るといい。」 「有~希~?」 彼女はにんまりと笑いながら、『彼』が見たら先のことを考えて諦観に至りそうな顔で言った。 「あたしが、このままお風呂を用意されて、はい、そうですか、って入る人間やと思うか~?」 【あたしが、このままお風呂を用意されて、はい、そうですか、って入る人間だと思うのかしら?】 わたしは、彼女の性向を考慮したデータベースから、該当する状況を検索する。 「……思わない。」 「女の子同士でお泊まり言(ゆ)うたら、お風呂で流しっこに決まっとぉやろ♪」 【女の子同士でお泊まりと言えば、お風呂で流しっこに決まってるじゃない♪】 その情報は、主に男性向けの情報源によって提供される一種の幻想なのだが、普段の言動からも分かるように、彼女の主な情報源はそのような男性向けの類なので、彼女にとっては、それが当然の行為。 やがて、湯船に規定量のお湯が溜まった事を知らせる音が鳴った。 「さ、入ろ、入ろ~♪」 彼女に手を引かれて浴室に向かう。彼女の顔は1MeV(メガエレクトロンボルト)級の笑顔だった。今の彼女なら、一億度以上にプラズマを加熱して、熱核融合炉を起動させることができそうだと思った。 まずわたしが彼女を洗う。 「背中にニキビを発見した。」 「嘘ぉ!? どこどこ?」 「ちょうど手の届かない場所。」 そう言って、わたしは該当箇所を指先で触れる。 「痛たたた……確かにそこは、ちょっと痛いなとは思(おも)てたけど、ニキビできてたんか。」 【痛たたた……確かにそこは、ちょっと痛いなとは思ってたけど、ニキビができてたのか。】 「保湿に気をつけるべき。後で薬を塗ってあげる。」 「頼むわぁ~。うう、油断した……不覚っ……!」 【頼む~。うう、油断した……不覚っ……!】 自分の目の届かない場所でニキビの発生を許したのが余程悔しかったらしい。だが、これも致し方ないことなのかもしれない。 「ニキビの発生もストレスの表れ。やはりあなたには気晴らしが必要だった。」 「そやね……」 【そうね……】 お湯を掛けて、泡を洗い落とす。 「はい、おわり。」 「ありがと~。気持ち良かったわぁ♪」 『気持ち良い』という言葉には、大まかに分類すると二つの意味がある。 一つは、精神的な意味。もう一つは、性的な意味。 わたしはふと、彼女が言ったのはどちらの意味なのだろうかと考えた。それは、人間で言うところの、ある種の『予感』だったのかもしれない。 「次はあたしが洗ったげる番やな。」 【次はあたしが洗ったげる番ね。】 彼女は……ニヤニヤしていた。にやけるのを必死で堪えて、結局堪え切れなかったという表情に見えた。 わたしはその時、感じるべきだったのだろう。『貞操の危機』というものを。 今度は彼女がわたしを洗う。 「うわ~。有希の肌って、ほんま白いなぁ~。それにめっちゃすべすべやし。」 【うわ~。有希の肌って、ほんと白いわね~。それにすっごくすべすべだし。】 彼女は背中だけでは終わらせなかった。 「……そこは自分で洗える。」 「ま、ええから、ええから。気にしたらあかん♪」 【ま、良いから、良いから。気にしちゃだめよ♪】 彼女の手が、わたしの腕を、腹を、脚を、洗ってゆく。彼女は、わたしの身体を撫で回しながら、怪しく囁いた。 「ええかぁ~? ええのんかぁ~? 最高かぁ~?」 はっきり言って、今の彼女は、いわゆる『えろおやぢ』である。 何が彼女をこうしてしまったのだろうか。やはり不安定な精神状態のときに異性装をさせたのがまずかったのだろうか。 ということは、結局のところわたしの行動の結果、わたしがこのような状況に置かれているわけで、人間の言葉で言うところの『自業自得』、過去におけるわたしの行動の責任を現在のわたしが取っているわけで、そもそもなぜわたしはあの時、わざわざ『男装』を提案したのかを考えてみるに、彼女の属性と最もかけ離れた属性として男性を選んだからであって、しかし、彼女の麗しの男装姿を見てみたいと少しだけ思ったのもまた事実であり、ああ、もう何を考えているのか分からない。とりあえずこれだけは確実に言える。 「……きもちいい。」 彼女は、とても満足した顔をした。彼女の瞳が妖しく光る。 もう、どうにでもしてください。 ………… ……… …… … 最後に二人で一緒に湯船に浸かる。二人で入ってもさほど窮屈ではない湯船だが、今わたしは彼女に後ろから抱きかかえられ、密着している。 「有希の体って、胸はちっちゃいけど、めっちゃ抱き心地ええなぁ~」 【有希の体って、胸はちっちゃいけど、すっごく抱き心地良いわね~】 わたしの耳元で、彼女が囁く。結局、あれからわたしは、全身を隈なく蹂躙された。わたしが『ぐったり』するまで。 「……すけべ。」 振り返って、わたしは言った。 「そういう反応も、めちゃめちゃ可愛いなぁ~」 【そういう反応も、めちゃ可愛いなぁ~】 「…………」 わたしはそっぽを向いた。 「さっきは、その、思わず暴走してしもたけど……詳しく語ると18禁になるし……って、あたし17歳やな……詳しくは語らへんけど、有希と、こうしていちゃついてると、すごく気持ちが落ち着くわ。何ていうか、めっちゃ気持ちええねん。性的な意味だけやなくて、精神的な意味でも。」 【さっきは、その、思わず暴走してしまったけど……詳しく語ると18禁になるし……って、あたし17歳だったわね……詳しくは語らないけど、有希と、こうしていちゃついてると、すごく気持ちが落ち着くわ。何ていうか、すっごく気持ち良いのよ。性的な意味だけじゃなくて、精神的な意味でも。】 「性的な意味もあるの。」 「うっ、それは……気にしたら負けや♪」 【うっ、それは……気にしたら負けよ♪】 彼女はわたしの耳に息を吹きかけてきた。背筋がぞくぞくする。 「ぁはぁ……」 吐息と声が漏れる。 「んふふん? 耳弱いんや?」 【んふふん? 耳弱いんだ?】 彼女はわたしの耳を弄び始めた。またスイッチが入ってしまったのだろうか。 「……もう、上がる……のぼせそう。」 「むふー、残念。」 彼女はわたしの耳を甘噛みしながら言う。 わたし達は湯船から上がった。彼女の体が桜色に上気しているのは、入浴のせいだけではないのだろう。 風呂上り。わたしと彼女は二人して、『豆乳』を一気飲みする。彼女曰く、片方の手を腰に当てるのが作法なのだそう。もちろんそれは違うのだが、もはや何も言うまい。 二人、パジャマ姿で片方の手を腰に当て、豆乳を一気に飲み干す。 「ぷっはぁ~~~~!!」 彼女が情報源にすると思われる様々な情報を検索すると、この場合、一気に飲み干される飲み物としては『牛乳』が最も登場頻度が高かった。 「牛乳って、実はあんまり体に良ぉないんやって。えーと、何やったかな。燐が多いから、体からカルシウムが排泄されて、かえって骨粗鬆症になるとか、たんぱく質が体内に入り込んでアレルギー体質になるとか、そもそも哺乳類が離乳してからも乳を飲むことは本来不都合やとか……あ、そうそう、乳糖を分解できひんから、お腹壊すんやって。」 【牛乳って、実はあんまり体に良くないんだって。えーと、何だったかな。燐が多いから、体からカルシウムが排泄されて、かえって骨粗鬆症になるとか、たんぱく質が体内に入り込んでアレルギー体質になるとか、そもそも哺乳類が離乳してからも乳を飲むことは本来不都合だとか……あ、そうそう、乳糖を分解できないから、お腹壊すんだって。】 そのような理由から、豆乳を飲むことにしたらしい。『健康ブーム』の影響で、飲むのはおからも含んだどろり濃厚な無調整豆乳。 わたしは彼女の死角で薬箱を構成した。 「では薬を塗る。そこに横になって。」 「はぁ~い。」 彼女は上半身裸になると、リビングのラグの上にうつ伏せになる。 「膿を持っている。膿を抜いておいた方が、治りが速い。」 「うっ……そうなん?」 【うっ……そうなの?】 「そう。」 背中であるため、彼女からは死角になるのを良いことに、わたしは処置を開始する。彼女への情報操作は許されていないが、要は『直接』彼女に操作しなければ良い。わたしは情報操作によって、人間が使用する『医療機器』を作り出した。 そう、『道具』を介在させることで、彼女への操作を可能にできる。今頃になって、そのことに思い至った。 ピンポイントレーザーで、ニキビの頭部に小さな穴を開ける。皮脂腺に挿入できるほど極細のピンセットで、奥にある細菌叢ごと、膿をつまみ出す。生理食塩水で、膿を取り去った跡と周囲を洗浄する。これにより、患部は本来の微生物分布に戻る。 (術式おわり。) 何となく声に出さずに呟いた。 「おわった。」 「あ、ありがと……何か、いろいろされたような気がするけど……何したん?」 【あ、ありがと……何か、いろいろされたような気がするけど……何したの?】 「適切な処置。」 「……そう。」 彼女は、服を着ながらぽつりと呟いた。 「今の有希、お医者さんみたいやったな……」 【今の有希、お医者さんみたいだったわね……】 『おいしゃさんごっこ』 なぜかこんな言葉がわたしの記憶領域に浮かんだ。この言葉にもやはり二つの意味があるらしい。 一つは、とてもほほえましい意味。もう一つは、どちらかというとこっちが主な用法に思えるが、性的な意味。 今日という日も残り少なくなった。そろそろ寝ることを提案しよう。 「そろそろ寝る時間。」 「あ、もうこんな時間なんや。さすがに疲れたかな、今日はちょっといろいろあったし。」 【あ、もうこんな時間なんだ。さすがに疲れたかな、今日はちょっといろいろあったし。】 彼女も同意する。わたしの瞳を見据えて。 「主に新発見方面で。ほんまイロイロ発見させられたわ。」 【主に新発見方面で。ほんとイロイロ発見させられたわ。】 わたしも彼女にいろいろされた。主に性的な意味で。わたしの中で涼宮ハルヒの呼称が変化したのも、今日のこと。 「布団を準備する。待ってて。」 「有~希~?」 彼女はにんまりと笑いながら、わたしが見ても先のことを考えて諦観に至りそうな顔で言った。 「あたしが、このまま布団を用意されて、はい、そうですか、って寝る人間やと思う~?」 【あたしが、このまま布団を用意されて、はい、そうですか、って寝る人間だと思う~?】 わたしは、彼女の性向を考慮したデータベースから、該当する状況を検索する……までもなかった。 「……思わない。」 「と~ぜんや♪ 女の子同士でお泊まり言(ゆ)うたら、同(おんな)じ布団で仲良く語り合うに決まっとぉやろ♪」 【と~ぜんよ♪ 女の子同士でお泊まりと言えば、同(おんな)じ布団で仲良く語り合うに決まってるじゃない♪】 なお、彼女の言う行為は決して平均的な人間の行動ではないが、もちろん彼女は平均的な人間ではない。 「有希の部屋って、どんな感じなんやろな? 意外に女の子らしい、可愛い部屋やったりして。」 【有希の部屋って、どんな感じなんだろ? 意外に女の子らしい、可愛い部屋だったりして。】 ……申し訳ない。わたしの部屋は、あなたの期待には到底応えられそうにない。 わたしの身辺は、結局のところ、あなたがわたしという個体を見て思い描く通りに設定されている。よって、今のわたしの部屋は、あなたが普段本を読むわたしを見て思い描いた通りの部屋だと思う。 なるほど、そういう意味ではあなたの期待に違わないのかもしれない。 しかし今のわたしに対するあなたの印象は随分変化したはず。わたしが変化させてしまったから。だから、現在のあなたが期待するものは、わたしの部屋にはないだろう。 でも、もしあなたが『こうあってほしい』と願うなら、わたしの身辺はあなたが願った通りに再構成される。 わたしはあなた色に染まる。あなた好みのわたしになる。もっとあなた色に、わたしを染めてしまってもいい。染められてしまいたいかもしれない。 ……ここまで一気に考えて、ようやくわたしは正気を取り戻す。 確かに今日のわたしは、どこかおかしいらしい。つい数時間前にそう呼ぶのをやめようと決意したばかりだが、さすがにこれは呼んでも良いと思う。大量のエラーが発生している。こんな微妙に回りくどい独白をしているなんて、まるで『彼』のよう。やれやれ。これも『彼』の口癖。 「……有希、それキョンのモノマネ? 妙に似てるっていうか、実感篭もっとぉで?」 【……有希、それキョンのモノマネ? 妙に似てるっていうか、実感篭もってるわよ?】 声に出していたらしい。独白の朗詠(ろうえい)もとい漏洩(ろうえい)は『彼』のいつもの行動。やれや……おっと。 ←Report.05|目次|Report.07→
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アムネスティ・インターナショナルによる GAZA Report Report 本体 ソースと目次からの分岐:Fuelling conflict Foreign arms supplies to Israel/Gaza -index 前書きから読む 先行ブリーフィング Foreign-supplied weapons used against civilians by Israel and Hamas Amnesty international 2009.2.20 米国製武器不正使用の証拠で武器禁輸の必要性高まる アムネスティ・インターナショナル日本 アムネスティ発表国際ニュース2009年2月23日 アムネスティ・スタッフブログ ガザ_調査団ブログの和訳 原文livewire 関連報道 Amnesty US assisted Gaza war crimes ynetnews Amnesty urges arms embargo on Israel, Hamas AFP Amnesty International Gaza white phosphorus shells were US made Times Online Amnesty calls on US to suspend arms sales to Israel Guardian Why Howard Jacobson is wrong Guardian Suspend military aid to Israel, Amnesty urges Obama after detailing US weapons used in Gaza Guardian Hamas rejects Amnesty International's accusation of using illegal weapons chinaview.cn Amnesty International urges freeze on arms sales to Israel Haaretz ADL Amnesty denying Israel the right to defend itself Haaretz アムネスティ、イスラエルとハマスに武器禁輸求める CNN Japan ガザ攻撃 『フレシェット弾使用』 人権団体、戦争犯罪と非難 東京 イル・マニフェスト 2009年2月24日(火)第11面 トップページ Amnesty US assisted Gaza war crimes ynetnews (2009-02-25 07 50 21) Amnesty urges arms embargo on Israel, Hamas AFP (2009-02-25 07 51 48) Amnesty International Gaza white phosphorus sh... (2009-02-25 07 53 08) Hamas rejects Amnesty International's accusatio... (2009-02-25 07 54 41) Amnesty International urges freeze on arms sale... (2009-02-25 07 56 26) ADL Amnesty denying Israel the right to defend... (2009-02-25 07 57 41) Amnesty calls on US to suspend arms sales to Is... (2009-02-25 08 53 36) Why Howard Jacobson is wrong (2009-02-25 08 57 44) Suspend military aid to Israel, Amnesty urges O... (2009-02-25 09 01 18) Amnesty says Israeli response to Hamas strikes ... (2009-02-26 14 17 57) Gaza case studies Weapons use (2009-02-26 14 21 35) サイト名 URL
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Report.23 長門有希の憂鬱 その12 ~涼宮ハルヒの手記(後編)~ 前回に引き続き、観測対象が綴った文書から報告する。 (朝倉涼子の幻影I) 最近、朝倉が出てくる夢を見る。 最初は変な空間だった。 「ようこそ、涼宮さん。ここはわたしの情報制御下にある。」 朝倉は、意味不明なことを宣言した。と思ったら、おもむろにごっつい軍用ナイフを取り出した。そして、あたしに向けてナイフを構えた。 「ちょ、ちょっと! 何の冗談よ、それ!? 面白くないし笑えないって!」 朝倉はあたしの呼び掛けを完全に無視すると、一直線にあたしを刺してきた。 「……っ!」 あたしは紙一重で、朝倉の攻撃をかわした。 「性質の悪い冗談はやめて! 玩具でも危ないって!」 あたしは叫びながら、あたしを掠めていった朝倉に向き直った。 ……ナニ、コレ。 朝倉のナイフが、何もない空間に突き刺さっているように見えた。 かと思ったら、朝倉のナイフが突き刺さってる辺りを中心に、黒い人型の靄のようなものが現れた。朝倉は、ナイフをその黒い人型の靄に突き刺したまま、靄を払うように振り抜いた。 一刀両断された靄が空気に溶けていった。 ……… …… … なんじゃこりゃ――――!! ってところで目が覚めた。 マジで、何じゃこりゃ? (朝倉涼子の幻影II) 最近、朝倉が出てくる夢を見るっていうことは前に書いたけど、この話には続きがあったのだ。いや、本当に続きなのかどうかは分かんないけど。 内容としては、実は前に書いたことがあった。ここから前のどっかのページに書いてある。その内容は、まあ、その……あたしが朝倉の『ぱんつ』見て喜んでるやつよ。 そこ! HENTAIとか言わない! あたしだって自覚してるんだから! 冗談はさておいて。 前にも書いた内容ではあるんだけど、『ぱんつ』だけなのもアレなので、もうちょっと詳しく書いとこう。 状況としては、こう。 あたしは通学路の途中、あの北高前の長い坂を下り、線路沿いにしばらく行った住宅街にいた。街並みは、あたしが知ってる、見慣れた風景。でも、二つ違う点があった。 一つ。空の色がヘン。一言で言うと、色がない。 二つ。物音がしない。本当に、一切、音がしない。完全な無音。 目の前には、人影が二つ。 人影その1。私服姿の朝倉涼子。両手にはなぜか鉄筋を持っている。 人影その2。覆面姿の超能力者。覆面にはなぜかストッキングを使っている。 そんな二人が、あたしの目の前で戦っている。超能力者が空中に鉄筋を発生させて、朝倉に向けて撃つ。朝倉は、両手の鉄筋で、飛んできた鉄筋を残らず叩き落とすと、そのまま間合いを詰めて超能力者に殴りかかる。超能力者はすぐに自分の手の中に鉄筋を出現させ、対抗する。一進一退の攻防。 ああ、なんて現実離れした夢だろうか、とあたしは目の保養に勤しんでたってわけ。夢の中なのに、妙にリアルだったわね、朝倉のスカートの中身(ちなみに『縞パン』よ)。 しばらく攻撃の応酬が繰り広げられた後、両者は間合いを取って睨み合い。 って書くと、互角のように見えるけど、実は超能力者の方は飛び道具持ってんのよね。撃ち出される鉄筋を叩き落としてる朝倉だけど、だんだん押されていく。そして、調子に乗った超能力者は、大量の鉄筋の雨を朝倉に降らせた。 夢の中なのに、思わず叫んじゃったわ。まあ、朝倉は無事だったけど。さすが夢。 その後もすごかった。 地面に磔にされた朝倉の言葉に、あたしは有希の姿を思い浮かべた。 何ということでしょう。 再び降る鉄筋の雨を爆散させて、長門有希が颯爽と現れたのです。 ……いや、劇的にビフォーアフターしてる場合じゃないって。自分で自分にツッコミを入れてる間に、有希はヌンチャクで超能力者をしばき始めた。……いつも通りの無表情で。 有希……相当怖いって、それ。 だって、考えてみてよ? ぱっと見は可憐で儚げな美少女が、ストッキングで覆面した変態を、無言で無表情のまま、淡々とヌンチャクでどつき回してるのよ! こんなシュールな画には、なかなか遭遇できないわね。 それから朝倉は、これまたイメージぴったりな薙刀を装備。あたしの護衛として大立ち回りを披露してくれた。 はっきり言うわ。 激萌え!! 夢の中の二人は、なぜか息もぴったりで、まるで長年付き合った相棒みたいだと思った。 まるで……姉妹みたいに。 (朝倉涼子の幻影IV) 夢とは、まこと奇怪なものであることよ。 ……古文の直訳風に書き出してみたけど、他意はない。 最近、朝倉が出てくる夢を見るけど、今日のは今までで一番恥ずかしい夢だった。 これを書いてるのは午前五時。あまりの恥ずかしさに目が覚めて、しかもそのまま眠れなくなったってわけ(目が覚めたのは四時頃だったような……うわ、一時間も悶々としてたのか! 重症だ……orz)。 どうにも寝付けないし、悶々として身悶えして仕方がないので、文章を書いて気持ちを落ち着けようと試みるテスト。 ああ、やっぱり動揺してるな。日本語おかしい。「試みる」と「テスト」って、意味一緒やん! ……よし。大分落ち着いてきた。落ち着いてこー! ああもう。いい加減話を進めよう。書き出してしまわないともう、おかしくなりそうだし。 まず場面を説明するわ。 この夢は、この間見た夢と繋がっているのかいないのか、よく分からない状況。ただ、なんかやたら長い、どこかで見たような包みが壁に立て掛けてあったから、多分続きものじゃないかと睨んでる。 壁、ってことでも分かるように、場所は室内。て言うか部室。 登場人物は、朝倉、有希、みくるちゃん、古泉くん、キョン、それから……喜緑さん? 生徒会役員の。あのクソ生徒会長と一緒に現れた人。SOS団に恋人の捜索依頼をしてきたこともあったわね。 状況は、部室で、あたしと有希が話してて、というか、あたしが有希に語りかけてて、それを登場人物全員に見られてるところ。 こんな大勢の人間に見られながら、あたしは……うわー、やっぱり恥ずかしい! 自分でも分かるくらい、顔が熱い。多分、真っ赤になってるんだろうなあ。でも、これを書かなきゃ、多分ずっとこの顔と身体の熱さは治まらないわ。 こんな衆人環視の状況で、あたしは、有希に、激しく、 告 白 し た キ ス し た ……… …… … ぎゃぽ――――!! 死ぬほど恥ずかしい!! ――30分経過。ようやく落ち着いてきたので再開。 あれから30分、あたしは布団でずっとごろごろ転がってた。ていうか、身悶えてた。あひー、とか奇声を発しながら。……こんな姿、人には絶対見せられないな。 夢の話の続きは…… あ゛――――! ダメ! 無理! もうこれ以上詳しく書けない! 書いたら死んじゃう! でも書かないとやっぱり恥ずかしくて死んじゃう! ギリギリ書ける範囲で書いてみることを試みると、次のようになる。 あたしは有希を正面から見据えた。そして、有希に出会った日からの、あたしと有希の思い出を語った。 最初はやけに無口で変わった娘だと思っていたこと。それがだんだん、どうすれば仲良くなれるかというものに変わっていったこと。文化祭の思い出。体育祭の思い出。雪山の冬合宿。バレンタインデー攻略計画。 要は、あたしの「愛の告白」が延々と続いてたってわけ。 おお、これだけ端折って書くと、書けるもんね。 しかし、ありえない。夢だから、で説明は付くけど。 それにしても、おかしすぎる。違和感ありまくり。どこに違和感を覚えるかって、そら、女が女に告白してる時点でツッコミ入れるやろ! ってなもんだけど、そこだけじゃない。何というか、夢にしては、そしてありえない情景にしては、妙に現実感があることか。 今でも、こう、抱き締めた時の有希の感触とか……うわー! 不用意に書いたら、感触が蘇ってきた――――! 落ち着け落ち着け……こんせんとれーしょん……って、それは「集中」! アホなこと書いてないで、先に進めよう。 さて。このやたらと恥ずかしい夢は、困った事に、非常に現実感があるのだ。なぜなら、夢の中で有希に熱く語った、あたしと有希の思い出が、どれも実話だからだ。 思い出だけじゃない。あたしの、有希に対する「想い」もまた、現実にあたしが有希に感じてる想いをいろいろと加工したら、わりと無理なく得られるくらいに「それっぽい」のだ。 つまり。 あたしは、有希のことが好き? ……ということは、これはあたしの願望っていうこと? いつか、有希に告白したい。そしてOKを貰いたいっていう、信じられないような願望だと? ありえなーい。 はあ。明日からどんな顔して有希に接したら良いんだろ? まともに顔見られないかも。 そうだ。試しに有希に抱きついてみて、感触を確かめてみようか。それで「現実は違う」って納得しよう。 ……なんてね。アホか、あたしは。 翌日。……結局実行してしまった。アホや、あたしorz えー、抱き締めた有希の感触は、小さくて、柔らかくて、正直たまりませんでした…… って、違う、そうじゃなくて。 驚いたことに、夢の中と同じ感触だった。 すぐに抱き比べ(!)てみたけど、やっぱりみくるちゃんとは違う感触。主に胸とか。 いやー、有希ってば、やっぱりちっちゃくて可愛いなぁ~! でも身長は、実はみくるちゃんの方が若干低いのよね。あの巨乳で分かりにくいけど、みくるちゃんの方が、本当は小柄なのよね。抱き締めても、全然そうとは思えないけど。 有希の方が、胸とか小振りで、なんていうかイメージぴったり? って感じ。 みくるちゃんのは「手から溢れ出す」って感じだけど、有希のは「手に収まる」って感じかな。小柄な身体と小振りな胸を、あたしの身体と掌でしっかり掴めるというか。 ……とにかく、みくるちゃんの感触を夢で再生してたわけじゃなかった。 何であたしは、有希の抱き心地を知ってたんだろう。まだ抱いたことなかったはずなのに。まさか予知夢? って、「抱いたことない」って、なんか変な意味にも取れるわね…… うーん…… 考えれば考えるほど、分からないや。 【ここから先は、涼宮ハルヒがすべてを思い出した後の話。】 (涼宮ハルヒの混乱) あたしは今、猛烈に困惑している。 何コレ。 「コレ」とは、今この文章を書いている、この日記帳、『涼宮ハルヒの手記』のことよ。 もう一度問う。何コレ。 この手記に書いてある文字は、確かに、あたしの字だ。でも、あたしはこんな手記の存在を知らない。でも、何となく書いた覚えがある。 そしてその内容が、ますますあたしを困惑させる。とても信じられない内容だわ。ぶっちゃけ、ありえない。 だって、だってよ。 あたしが、有希のこと、その……「好き」だなんて。しかも、有希と、その……「一線越えちゃってる」なんて。 あー、やばいやばい。書いてて顔が熱い。いや、全身か。 落ち着いて考えてみなさいよ? あたしと有希は、女の子同士。 そりゃ、あたしだって、有希と仲良くしたいとは、思うわよ? あの娘、いつも無口で無表情で、ちょっと変わってるところはあるけど、ああ見えてうちのSOS団随一の万能選手なんだから。団長たるあたしも鼻が高いってもんだわ。それに、確かに有希は、よく見るととても整った顔立ちで、色白で……儚げな中にも、可憐さと凛々しさが同居してる、そんな不思議な魅力があることは認めるわ。 でも、だからって、有希と……「肉体的に」まで仲良くなりたいとは、さすがに思わないわ。 だから、ありえない。それこそ、精神病の一種だわ。 落ち着け、あたし。こんなときは素数を数えるのよ。 1,2,3……しまった、1は素数じゃないわ。 (涼宮ハルヒの決心) さてと。前のページでは、あのように書いたけど。前言を撤回するわ。 この手記を見付け、読み終わって、前のページを書いてからしばらくの間。 あたしは、心を落ち着けるために、しばらくぼーっとしてた。 物事を考察するに当たっては、先入観や固定観念は最大の障害となる。だから、心を空っぽにするために、ひたすらぼーっとしてた。ある意味放心状態よね。そうやってしばらく放心して、明鏡止水のような心境になって、あたしは再び考え出した。 そうしたら、思い出した。 間違いない。この手記は、あたしが書いたものだわ。朧ながらも、あたしがこれを書いていた頃のことが思い出されてきた。 それと共に、ある「想い」も、思い出した。 あたしは、有希が好き。 まさか自分がこんなことを思ってたなんて、信じたくない、認めたくないけど、もう言い逃れはやめることにするわ。だって、自分の心にはいつまでも嘘をつき続けられないんだもの。 自分の心に嘘をつくのをやめた途端、色々なことが一気に思い出された。 何てことかしら。 あたしは、こんなにも、有希のことが好きだったなんて。 それに……有希と、その……ヤっちゃったのも本当のことだ。 うわ、恥ずかしい! 有希ったら、あんなことやこんなことを…… いや、そもそも、先に手を出したのはあたしなんだけどさ。 てことは、自業自得か、あたし? あたしは、決めた。もう迷わない。もう忘れない。 あたしは、有希のことが好き。 この気持ちは、まだ明確に伝えてないかもしれない。あの告白が夢だったとしたら。夢じゃないかもしれないけど、それならそれでもう一度、想いを伝えたって良いはずだわ。 だからあたしは、有希に手紙を書くことにした。この際だから、この手記ごと見せるわ。 有希、読んでね。あたしのこれまでの、そしてこれからの気持ちをさ。 (涼宮ハルヒの手紙) 有希に読んでほしいこと。 ここまで読んで、あたしはどんなことを思っていたのか思い出した。 不思議なことに、今まで何となく感じていた、心の一部が抜け落ちたような感覚が治まった。まるでパズルのピースがはまるように、抜け落ちていた部分がぴったり埋まったような気がする。 この「手記」を読むに、あたしは色々と大事なことを忘れていたらしい。 あたしの身に何かが起こったのだろうか? その辺りは今でもまだ思い出せない。でも、ある日を境に、心から何かが抜け落ちたような気がしていた。 今なら分かる。その時「何か」があって、あたしはある大切な想いを忘れてしまった。 自分で忘れていたのなら、自分の不甲斐なさを恥じるしかない。でも、なぜかそうじゃない気がする。あたしは、何者かにその想いを忘れさせられたのだと感じている。これは何かの陰謀かもしれない。 とにかく、今はそのことはいい。思い出せた事実の方がずっと大切だから。 思い出した想いを、改めてここに記す。もしもまた、忘れたり忘れさせられたりするようなことがあっても、すぐに思い出すことができるように。 有希へ。 あたしはあんたを愛してる。 あたしもあんたも女の子だけど、そんなことは関係ない。 いろんな意味で、あんたが好き。大好き。 だからあたしは、あんたがいなくなった時、とても寂しかった。苦しかった。 そして、もう二度とあんたを失いたくないって思った。 それなのに、この気持ちを忘れていたなんて、どうかしてる。本当にごめん。 この気持ちを忘れないように、想いを文字にしてここに記す。 願わくば、もう二度とこの気持ちを忘れることがないように。 願わくば、もう二度とあんたを失うことがないように。 そして――願わくば、あんたとずっと一緒にいられますように。 涼宮 ハルヒ 【ここまでが、その時にわたしが見た手記の内容。その後、次の部分が涼宮ハルヒ自身の手によって新たに書き加えられた。】 追伸 有希はあたしの嫁。 「嫁」と書いて「ともだち」と読む。 ←Report.22|目次|Report.24→
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Report.23 長門有希の憂鬱 その12 ~涼宮ハルヒの手記(後編)~ 前回に引き続き、観測対象が綴った文書から報告する。 (朝倉涼子の幻影I) 最近、朝倉が出てくる夢を見る。 最初は変な空間だった。 「ようこそ、涼宮さん。ここはわたしの情報制御下にある。」 朝倉は、意味不明なことを宣言した。と思ったら、おもむろにごっつい軍用ナイフを取り出した。そして、あたしに向けてナイフを構えた。 「ちょ、ちょっと! 何の冗談よ、それ!? 面白くないし笑えないって!」 朝倉はあたしの呼び掛けを完全に無視すると、一直線にあたしを刺してきた。 「……っ!」 あたしは紙一重で、朝倉の攻撃をかわした。 「性質の悪い冗談はやめて! 玩具でも危ないって!」 あたしは叫びながら、あたしを掠めていった朝倉に向き直った。 ……ナニ、コレ。 朝倉のナイフが、何もない空間に突き刺さっているように見えた。 かと思ったら、朝倉のナイフが突き刺さってる辺りを中心に、黒い人型の靄のようなものが現れた。朝倉は、ナイフをその黒い人型の靄に突き刺したまま、靄を払うように振り抜いた。 一刀両断された靄が空気に溶けていった。 ……… …… … なんじゃこりゃ――――!! ってところで目が覚めた。 マジで、何じゃこりゃ? (朝倉涼子の幻影II) 最近、朝倉が出てくる夢を見るっていうことは前に書いたけど、この話には続きがあったのだ。いや、本当に続きなのかどうかは分かんないけど。 内容としては、実は前に書いたことがあった。ここから前のどっかのページに書いてある。その内容は、まあ、その……あたしが朝倉の『ぱんつ』見て喜んでるやつよ。 そこ! HENTAIとか言わない! あたしだって自覚してるんだから! 冗談はさておいて。 前にも書いた内容ではあるんだけど、『ぱんつ』だけなのもアレなので、もうちょっと詳しく書いとこう。 状況としては、こう。 あたしは通学路の途中、あの北高前の長い坂を下り、線路沿いにしばらく行った住宅街にいた。街並みは、あたしが知ってる、見慣れた風景。でも、二つ違う点があった。 一つ。空の色がヘン。一言で言うと、色がない。 二つ。物音がしない。本当に、一切、音がしない。完全な無音。 目の前には、人影が二つ。 人影その1。私服姿の朝倉涼子。両手にはなぜか鉄筋を持っている。 人影その2。覆面姿の超能力者。覆面にはなぜかストッキングを使っている。 そんな二人が、あたしの目の前で戦っている。超能力者が空中に鉄筋を発生させて、朝倉に向けて撃つ。朝倉は、両手の鉄筋で、飛んできた鉄筋を残らず叩き落とすと、そのまま間合いを詰めて超能力者に殴りかかる。超能力者はすぐに自分の手の中に鉄筋を出現させ、対抗する。一進一退の攻防。 ああ、なんて現実離れした夢だろうか、とあたしは目の保養に勤しんでたってわけ。夢の中なのに、妙にリアルだったわね、朝倉のスカートの中身(ちなみに『縞パン』よ)。 しばらく攻撃の応酬が繰り広げられた後、両者は間合いを取って睨み合い。 って書くと、互角のように見えるけど、実は超能力者の方は飛び道具持ってんのよね。撃ち出される鉄筋を叩き落としてる朝倉だけど、だんだん押されていく。そして、調子に乗った超能力者は、大量の鉄筋の雨を朝倉に降らせた。 夢の中なのに、思わず叫んじゃったわ。まあ、朝倉は無事だったけど。さすが夢。 その後もすごかった。 地面に磔にされた朝倉の言葉に、あたしは有希の姿を思い浮かべた。 何ということでしょう。 再び降る鉄筋の雨を爆散させて、長門有希が颯爽と現れたのです。 ……いや、劇的にビフォーアフターしてる場合じゃないって。自分で自分にツッコミを入れてる間に、有希はヌンチャクで超能力者をしばき始めた。……いつも通りの無表情で。 有希……相当怖いって、それ。 だって、考えてみてよ? ぱっと見は可憐で儚げな美少女が、ストッキングで覆面した変態を、無言で無表情のまま、淡々とヌンチャクでどつき回してるのよ! こんなシュールな画には、なかなか遭遇できないわね。 それから朝倉は、これまたイメージぴったりな薙刀を装備。あたしの護衛として大立ち回りを披露してくれた。 はっきり言うわ。 激萌え!! 夢の中の二人は、なぜか息もぴったりで、まるで長年付き合った相棒みたいだと思った。 まるで……姉妹みたいに。 (朝倉涼子の幻影IV) 夢とは、まこと奇怪なものであることよ。 ……古文の直訳風に書き出してみたけど、他意はない。 最近、朝倉が出てくる夢を見るけど、今日のは今までで一番恥ずかしい夢だった。 これを書いてるのは午前五時。あまりの恥ずかしさに目が覚めて、しかもそのまま眠れなくなったってわけ(目が覚めたのは四時頃だったような……うわ、一時間も悶々としてたのか! 重症だ……orz)。 どうにも寝付けないし、悶々として身悶えして仕方がないので、文章を書いて気持ちを落ち着けようと試みるテスト。 ああ、やっぱり動揺してるな。日本語おかしい。「試みる」と「テスト」って、意味一緒やん! ……よし。大分落ち着いてきた。落ち着いてこー! ああもう。いい加減話を進めよう。書き出してしまわないともう、おかしくなりそうだし。 まず場面を説明するわ。 この夢は、この間見た夢と繋がっているのかいないのか、よく分からない状況。ただ、なんかやたら長い、どこかで見たような包みが壁に立て掛けてあったから、多分続きものじゃないかと睨んでる。 壁、ってことでも分かるように、場所は室内。て言うか部室。 登場人物は、朝倉、有希、みくるちゃん、古泉くん、キョン、それから……喜緑さん? 生徒会役員の。あのクソ生徒会長と一緒に現れた人。SOS団に恋人の捜索依頼をしてきたこともあったわね。 状況は、部室で、あたしと有希が話してて、というか、あたしが有希に語りかけてて、それを登場人物全員に見られてるところ。 こんな大勢の人間に見られながら、あたしは……うわー、やっぱり恥ずかしい! 自分でも分かるくらい、顔が熱い。多分、真っ赤になってるんだろうなあ。でも、これを書かなきゃ、多分ずっとこの顔と身体の熱さは治まらないわ。 こんな衆人環視の状況で、あたしは、有希に、激しく、 告 白 し た キ ス し た ……… …… … ぎゃぽ――――!! 死ぬほど恥ずかしい!! ――30分経過。ようやく落ち着いてきたので再開。 あれから30分、あたしは布団でずっとごろごろ転がってた。ていうか、身悶えてた。あひー、とか奇声を発しながら。……こんな姿、人には絶対見せられないな。 夢の話の続きは…… あ゛――――! ダメ! 無理! もうこれ以上詳しく書けない! 書いたら死んじゃう! でも書かないとやっぱり恥ずかしくて死んじゃう! ギリギリ書ける範囲で書いてみることを試みると、次のようになる。 あたしは有希を正面から見据えた。そして、有希に出会った日からの、あたしと有希の思い出を語った。 最初はやけに無口で変わった娘だと思っていたこと。それがだんだん、どうすれば仲良くなれるかというものに変わっていったこと。文化祭の思い出。体育祭の思い出。雪山の冬合宿。バレンタインデー攻略計画。 要は、あたしの「愛の告白」が延々と続いてたってわけ。 おお、これだけ端折って書くと、書けるもんね。 しかし、ありえない。夢だから、で説明は付くけど。 それにしても、おかしすぎる。違和感ありまくり。どこに違和感を覚えるかって、そら、女が女に告白してる時点でツッコミ入れるやろ! ってなもんだけど、そこだけじゃない。何というか、夢にしては、そしてありえない情景にしては、妙に現実感があることか。 今でも、こう、抱き締めた時の有希の感触とか……うわー! 不用意に書いたら、感触が蘇ってきた――――! 落ち着け落ち着け……こんせんとれーしょん……って、それは「集中」! アホなこと書いてないで、先に進めよう。 さて。このやたらと恥ずかしい夢は、困った事に、非常に現実感があるのだ。なぜなら、夢の中で有希に熱く語った、あたしと有希の思い出が、どれも実話だからだ。 思い出だけじゃない。あたしの、有希に対する「想い」もまた、現実にあたしが有希に感じてる想いをいろいろと加工したら、わりと無理なく得られるくらいに「それっぽい」のだ。 つまり。 あたしは、有希のことが好き? ……ということは、これはあたしの願望っていうこと? いつか、有希に告白したい。そしてOKを貰いたいっていう、信じられないような願望だと? ありえなーい。 はあ。明日からどんな顔して有希に接したら良いんだろ? まともに顔見られないかも。 そうだ。試しに有希に抱きついてみて、感触を確かめてみようか。それで「現実は違う」って納得しよう。 ……なんてね。アホか、あたしは。 翌日。……結局実行してしまった。アホや、あたしorz えー、抱き締めた有希の感触は、小さくて、柔らかくて、正直たまりませんでした…… って、違う、そうじゃなくて。 驚いたことに、夢の中と同じ感触だった。 すぐに抱き比べ(!)てみたけど、やっぱりみくるちゃんとは違う感触。主に胸とか。 いやー、有希ってば、やっぱりちっちゃくて可愛いなぁ~! でも身長は、実はみくるちゃんの方が若干低いのよね。あの巨乳で分かりにくいけど、みくるちゃんの方が、本当は小柄なのよね。抱き締めても、全然そうとは思えないけど。 有希の方が、胸とか小振りで、なんていうかイメージぴったり? って感じ。 みくるちゃんのは「手から溢れ出す」って感じだけど、有希のは「手に収まる」って感じかな。小柄な身体と小振りな胸を、あたしの身体と掌でしっかり掴めるというか。 ……とにかく、みくるちゃんの感触を夢で再生してたわけじゃなかった。 何であたしは、有希の抱き心地を知ってたんだろう。まだ抱いたことなかったはずなのに。まさか予知夢? って、「抱いたことない」って、なんか変な意味にも取れるわね…… うーん…… 考えれば考えるほど、分からないや。 【ここから先は、涼宮ハルヒがすべてを思い出した後の話。】 (涼宮ハルヒの混乱) あたしは今、猛烈に困惑している。 何コレ。 「コレ」とは、今この文章を書いている、この日記帳、『涼宮ハルヒの手記』のことよ。 もう一度問う。何コレ。 この手記に書いてある文字は、確かに、あたしの字だ。でも、あたしはこんな手記の存在を知らない。でも、何となく書いた覚えがある。 そしてその内容が、ますますあたしを困惑させる。とても信じられない内容だわ。ぶっちゃけ、ありえない。 だって、だってよ。 あたしが、有希のこと、その……「好き」だなんて。しかも、有希と、その……「一線越えちゃってる」なんて。 あー、やばいやばい。書いてて顔が熱い。いや、全身か。 落ち着いて考えてみなさいよ? あたしと有希は、女の子同士。 そりゃ、あたしだって、有希と仲良くしたいとは、思うわよ? あの娘、いつも無口で無表情で、ちょっと変わってるところはあるけど、ああ見えてうちのSOS団随一の万能選手なんだから。団長たるあたしも鼻が高いってもんだわ。それに、確かに有希は、よく見るととても整った顔立ちで、色白で……儚げな中にも、可憐さと凛々しさが同居してる、そんな不思議な魅力があることは認めるわ。 でも、だからって、有希と……「肉体的に」まで仲良くなりたいとは、さすがに思わないわ。 だから、ありえない。それこそ、精神病の一種だわ。 落ち着け、あたし。こんなときは素数を数えるのよ。 1,2,3……しまった、1は素数じゃないわ。 (涼宮ハルヒの決心) さてと。前のページでは、あのように書いたけど。前言を撤回するわ。 この手記を見付け、読み終わって、前のページを書いてからしばらくの間。 あたしは、心を落ち着けるために、しばらくぼーっとしてた。 物事を考察するに当たっては、先入観や固定観念は最大の障害となる。だから、心を空っぽにするために、ひたすらぼーっとしてた。ある意味放心状態よね。そうやってしばらく放心して、明鏡止水のような心境になって、あたしは再び考え出した。 そうしたら、思い出した。 間違いない。この手記は、あたしが書いたものだわ。朧ながらも、あたしがこれを書いていた頃のことが思い出されてきた。 それと共に、ある「想い」も、思い出した。 あたしは、有希が好き。 まさか自分がこんなことを思ってたなんて、信じたくない、認めたくないけど、もう言い逃れはやめることにするわ。だって、自分の心にはいつまでも嘘をつき続けられないんだもの。 自分の心に嘘をつくのをやめた途端、色々なことが一気に思い出された。 何てことかしら。 あたしは、こんなにも、有希のことが好きだったなんて。 それに……有希と、その……ヤっちゃったのも本当のことだ。 うわ、恥ずかしい! 有希ったら、あんなことやこんなことを…… いや、そもそも、先に手を出したのはあたしなんだけどさ。 てことは、自業自得か、あたし? あたしは、決めた。もう迷わない。もう忘れない。 あたしは、有希のことが好き。 この気持ちは、まだ明確に伝えてないかもしれない。あの告白が夢だったとしたら。夢じゃないかもしれないけど、それならそれでもう一度、想いを伝えたって良いはずだわ。 だからあたしは、有希に手紙を書くことにした。この際だから、この手記ごと見せるわ。 有希、読んでね。あたしのこれまでの、そしてこれからの気持ちをさ。 (涼宮ハルヒの手紙) 有希に読んでほしいこと。 ここまで読んで、あたしはどんなことを思っていたのか思い出した。 不思議なことに、今まで何となく感じていた、心の一部が抜け落ちたような感覚が治まった。まるでパズルのピースがはまるように、抜け落ちていた部分がぴったり埋まったような気がする。 この「手記」を読むに、あたしは色々と大事なことを忘れていたらしい。 あたしの身に何かが起こったのだろうか? その辺りは今でもまだ思い出せない。でも、ある日を境に、心から何かが抜け落ちたような気がしていた。 今なら分かる。その時「何か」があって、あたしはある大切な想いを忘れてしまった。 自分で忘れていたのなら、自分の不甲斐なさを恥じるしかない。でも、なぜかそうじゃない気がする。あたしは、何者かにその想いを忘れさせられたのだと感じている。これは何かの陰謀かもしれない。 とにかく、今はそのことはいい。思い出せた事実の方がずっと大切だから。 思い出した想いを、改めてここに記す。もしもまた、忘れたり忘れさせられたりするようなことがあっても、すぐに思い出すことができるように。 有希へ。 あたしはあんたを愛してる。 あたしもあんたも女の子だけど、そんなことは関係ない。 いろんな意味で、あんたが好き。大好き。 だからあたしは、あんたがいなくなった時、とても寂しかった。苦しかった。 そして、もう二度とあんたを失いたくないって思った。 それなのに、この気持ちを忘れていたなんて、どうかしてる。本当にごめん。 この気持ちを忘れないように、想いを文字にしてここに記す。 願わくば、もう二度とこの気持ちを忘れることがないように。 願わくば、もう二度とあんたを失うことがないように。 そして――願わくば、あんたとずっと一緒にいられますように。 涼宮 ハルヒ 【ここまでが、その時にわたしが見た手記の内容。その後、次の部分が涼宮ハルヒ自身の手によって新たに書き加えられた。】 追伸 有希はあたしの嫁。 「嫁」と書いて「ともだち」と読む。 ←Report.22|目次|Report.24→
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#blognavi Report DesignerはSAPアダプターを用意しており、ABAP無しでSAPのテーブルを利用できます。 【Report Designerからの利用方法】 ①OpenSQLで直接SQLを発行して利用 ②RFC(Remote Function Call)でSAPに用意されているFunctionを呼出し利用 簡単なものはOpenSQLで直接SQLを指定しレポートを作成します。 複雑なものはSAP側にFunctionを用意して頂き、それを利用します。 カテゴリ [FAQ] - trackback- 2010年11月15日 15 57 08 名前 コメント #blognavi
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2006年の記憶 スミソニアン博物館。 2007年に達成できた事 日本三景制覇 大阪の万博跡地 2008年に達成できた事 三重県のFFCパビリオン → 達成! 三重県の本居宣長記念館 → 達成! 自分のことをよく知れた一年だったと思います。 それを踏まえ、 2008年の元旦に掲げた目標「一つ一つ確実に物事を進める」を 、改めて、しっかりできるように頑張りたいと思います。 das Ende
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REPORTS モータースポーツランド~公開では一番最初のコースです~